中国の国有電気事業会社である中国華能集団(China Huaneng Group)は12月18日、江蘇省常州市の金壇(Jintan)で世界最大となる圧縮空気エネルギー貯蔵(Compressed Air Energy Storage =CAES、読み方はケイスまたはケイズ)プロジェクトの建設を開始したと発表した
同プロジェクトは2つのフェーズからなる。第1フェーズは実証試験的なプロジェクトとして進められ、出力60MW、容量300MWhで2022年7月に完工し既に稼働中という。
今回着工した第2フェーズでは出力350MWのCAESを2基建設し、総出力は700MW、容量は2.8GWhに達する。空気を貯める岩塩空洞の容積は120万m3であり、これにより総出力、総蓄電容量、およびエネルギー変換効率の点で世界最大のCAESになるとしている。
年間に330回の充放電サイクルを見込む。標準的な石炭に換算すると27万tに相当するエネルギーを節約することが可能で、温室効果ガス排出量換算では52万tのCO2削減量に相当するという。
同社傘下のエネルギー開発子会社がCAES開発を主導し、清華大学も参画している産学連携プロジェクトとなっている。
同社傘下の西安熱工研究院や政府系の食塩メーカーである中国塩業集団(CNSIG)も同プロジェクトに名を連ねる。
中国塩業集団はCAESで空気の圧縮や放出に使用される岩塩空洞に関連するサポートを、精華大学はCAESの技術や研究開発に関して重要な役割をそれぞれ担っているという。
中国では、湖北省応城市でも国家電網などがCAESを建設しており、2024年4月に完工、系統に連系している。
廃止となった岩塩坑を活用した。出力300MW、容量1500MWhと、こちらも世界的に見ても大規模なCAESとなっている。
このCAESの建設には約2年を要したが、これは揚水発電所と比較すると大幅に短い期間だとしている。総投資額は約19億5000万元に上り、エネルギー変換効率は最高で約70%という。
同国が急ピッチで増加させている太陽光や風力といった変動性再生可能エネルギーが系統網に与える影響を抑制するため、揚水発電とともにCAESを積極的に活用していることが伺える。
空気の圧縮と放出に伴う熱の扱いの点から、CAESは断熱型(Adiabatic-CAES=A-CAES)、非断熱型(Diabatic CAES=D-CAES)、定温型(Isothermal-CAES=I-CAES)の3種類に大別できる。
世界で初めてCAESを実用化したのは、ドイツである。同国北部のニーダーザクセン州エルスフレートで非断熱型の「フントルフ(Huntorf)CAES」が1978年に稼働を開始した。
同CAESは当初、隣接する火力発電所の負荷分散設備として導入されたという。その後ドイツで再エネを大幅に増加させる方針が策定されたこともあり、設備の増強を経て現在も稼働中である。
1991年には米国アラバマ州のマッキントッシュ(McIntosh)でもCAESが導入された。これらの2カ所では、熱による損失や、温室効果ガスの排出という欠点はあるものの、比較的簡単な構造の非断熱型が採用されている。
フントルフCAESについては、ガスタービンに使う燃料を天然ガスから水素に転換するといった脱炭素化の案も検討されているという。
2000年代に入ると、米オバマ政権下で成立した米国再生・再投資法(ARRA)により、米国はスマートグリッドの実用化を強力に推進した。その取り組みの一環として、複数のCAES実証プロジェクトが行われていたようだ。
しかし、アラバマ州以外でこれまでに事業化されたCAESは米国に存在しない。空気の圧縮や貯蔵に適した巨大な空洞が必要といった地理的な制約などもあったためとみられる。
それでも、空気の圧縮・放出時に発生し、損失となる熱を活用して効率を改善する断熱型(A-CAES)や定温型(I-CAES)の研究開発が世界各地で進められてきた。
例えば、カナダのスタートアップ企業であるハイドロストアは現在、オンタリオ州ゴドリッチで実証を行った技術を基に、米カリフォルニア州とオーストラリアのニューサウスウェールズ州でA-CAESプロジェクトに取り組んでいる。
日本でも早稲田大学などがNEDOの実証プロジェクトとしてA-CAESを東京電力の東伊豆風力発電所に併設して稼働させた事例がある。
また、中部電力も、同社管内における立地の可能性を探るためにCAESの技術的な評価や検討を1993年頃に行っている。
しかし、国内には岩塩層がほとんど存在せず地上設置の大容量タンクでは採算が合わないため、現在稼働中の商用CAESは存在しない。
一方、リチウムイオン電池を採用した蓄電所は、国内各地で建設が相次いでいる。経済産業省が系統に直接連系する蓄電池を法的に位置づけて事業環境を整備しつつ、設置費用を補助している。加えて、蓄電池の低コスト化が近年、急速に進んだことなどがその背景にある。
日本国内では、立地の面で制約が少なく収益化が比較的容易なリチウムイオン電池ベースの蓄電所が今後も増加すると思われる。長周期変動に対しては、電力大手各社が保有する既存の揚水発電所が引き続き活用されることだろう。
中国企業は、低価格の太陽光パネルと風力設備を世界に供給しつつ、リチウムイオン電池でも低コスト化を牽引している。加えて、CAESについても、すでに大規模な商用設備が複数箇所で稼働し、研究開発や建設も継続的に進められている。変動性再生可能エネルギーの大量導入を支えるエネルギー貯蔵技術でも、世界をリードしつつある。